← チャプター一覧屋久杉、ブナの森、流氷の海
日本最初の自然遺産が伝える、太古の森と海のつながり
地質時代〜現代(人の手がほとんど入っていない原生自然としての価値)
日本編の第8章では、これまでの文化遺産から離れ、日本の自然遺産をたどる。1993年、日本で初めて世界遺産に登録された4件のうち、屋久島と白神山地の2件は自然遺産だった(残る2件は文化遺産の法隆寺・姫路城)。屋久島は、数千年という樹齢を誇る屋久杉を中心とした原生林、白神山地は、人の手がほとんど入っていない世界最大級のブナの原生林として、それぞれ評価されている。そして2005年に登録された知床は、流氷が運ぶ栄養分によって海の生態系が育まれ、それが陸上のヒグマなど食物連鎖の頂点にまでつながる、『海と陸がひとつながりの生態系』という、自然遺産ならではのダイナミズムを示している。
文化遺産が『人間が何を作ったか』を評価するのに対し、自然遺産は『人間の手がどれだけ入っていないか』『生態系がどれだけ独自の価値を保っているか』が評価軸になる。この章では、日本列島の南北に残された、森と海の原生の姿をたどっていく。
このチャプターで押さえる世界史の軸
- 1993年、日本初の自然遺産として同時登録された屋久島・白神山地
- 屋久杉に象徴される『太古から続く原生林』という価値
- 知床にみる『海と陸がひとつながりの生態系』という自然遺産特有の評価軸
🎧 日本編 第8話:屋久杉、ブナの森、流氷の海
想定12分
写真:Jomon Sugi 01 — Σ364(CC BY 3.0) via Wikimedia Commons
1993年、白神山地とともに、日本で初めて世界自然遺産に登録された島。標高1900メートルを超える山々が海からそびえ立ち、亜熱帯的な海岸部から、山頂付近の冷温帯的な環境まで、狭い島の中に垂直方向の多様な植生が連続して見られる点が高く評価されている。象徴的存在が屋久杉で、樹齢1000年を超えるスギを指してこう呼ぶが、中でも最大級とされる『縄文杉』は、樹齢が推定で2000年から7200年ともいわれ、正確な年代は今も確定していない。
屋久島の年間降水量は多い地域で1万ミリに達するとも言われ、『ひと月に35日雨が降る』と形容されるほどの多雨な環境が、豊かなコケ植物や照葉樹林を育んできた。この湿潤な気候と、標高差による多様な植生の連続性こそが、屋久島が世界遺産として評価されている核心であり、宮崎駿監督のアニメーション映画の森のモデルの一部になったとも言われる、幻想的な苔むした森の風景を生み出している。
📝 検定ポイント(これだけは覚える)
- 登録年は1993年(白神山地と同時、日本初の自然遺産)、所在地は鹿児島県
- 象徴的存在は縄文杉(樹齢2000〜7200年、諸説あり)
- 評価軸は標高差による亜熱帯〜冷温帯の植生の垂直分布、多雨気候が育む苔の森
雑学メモ
- 縄文杉の樹齢は推定2000年から7200年まで諸説あり、内部が空洞化しているため年輪による正確な年代測定ができていない。
- 屋久島は『ひと月に35日雨が降る』と表現されるほどの多雨地帯で、この湿潤な気候が豊かな苔の森を育んでいる。
- 屋久島は海岸部から山頂まで標高差が大きく、亜熱帯から冷温帯までの植生が狭い範囲に連続して分布する『植生の垂直分布』が評価されている。
🌍 Google Earthで場所を見る写真:Shirakami-sanchi — Stefan Ertmann(CC BY-SA 2.0) via Wikimedia Commons
1993年、屋久島と同時に日本で初めて世界自然遺産に登録された、青森県と秋田県にまたがるブナの原生林。世界最大級の規模を誇るブナ天然林が、人の手がほとんど入らない状態でまとまって残っている点が評価されている。ブナは、かつて日本各地の山地に広く分布していたが、木材としての価値が低いとされ伐採が進んだ結果、大規模な原生状態のまま残る森は少なくなった。その中で白神山地は、林業や道路開発の対象とならなかったことで、太古からの姿をとどめる貴重な森として残った。
登録範囲の中心部は特別保護地区に指定され、道路も建設されておらず、一般の立ち入りも厳しく制限されている。これは、遺産としての価値を『見せる』ことよりも『守る』ことを優先した結果であり、自然遺産の中でも特に厳格な保護方針が取られている例として知られる。ブナの森は保水力が高く『緑のダム』とも呼ばれ、多様な動植物を育む豊かな生態系の基盤となっている。
📝 検定ポイント(これだけは覚える)
- 登録年は1993年(屋久島と同時)、所在地は青森県・秋田県
- 世界最大級の規模を誇る、人の手がほとんど入っていないブナ天然林
- 中心部は特別保護地区に指定、道路なし・立入制限という厳格な保護方針
雑学メモ
- 白神山地の中心部(核心地域)は特別保護地区に指定され、道路が建設されておらず、一般の立ち入りには入山許可が必要なほど厳格に保護されている。
- ブナの森は保水力が非常に高く『緑のダム』とも呼ばれ、山地に降った雨や雪をゆっくりと川に流し出す役割を果たしている。
- 白神山地には、ツキノワグマやクマゲラなど、まとまったブナ原生林でなければ生きられない動物たちも生息している。
🌍 Google Earthで場所を見る写真:Hokkaido-Drift ice, Shiretoko Peninsula-xl — kkawamura(CC BY 4.0) via Wikimedia Commons
北海道東部、オホーツク海に突き出た知床半島とその周辺海域からなる自然遺産。知床が高く評価されている最大の理由は、『海と陸がひとつながりの生態系』という点にある。冬、オホーツク海を南下してくる流氷は、豊富なプランクトンや栄養分を海にもたらし、それが魚を育て、魚を食べるアザラシやオオワシなどの海鳥・海獣を育て、さらにサケが川を遡上することで、その栄養分は陸上のヒグマにまで届く。海で生まれた栄養が、食物連鎖を通じて陸の生態系にまで循環しているのだ。
知床は、世界的に見ても流氷が接岸する海域としては最も低緯度に位置し、この流氷がもたらす豊かな海洋生態系と、それに支えられる陸上の生態系が一体として評価された点が、屋久島や白神山地とは異なる知床ならではの特徴だ。知床にはヒグマの生息密度が世界でも有数の地域があり、また絶滅危惧種であるシマフクロウやオオワシの重要な生息地にもなっている。
📝 検定ポイント(これだけは覚える)
- 登録年は2005年、所在地は北海道(知床半島とその周辺海域)
- 評価軸は『海と陸がひとつながりの生態系』、流氷が育む食物連鎖
- 世界的に見て流氷が接岸する最も低緯度の海域、ヒグマの高い生息密度
雑学メモ
- 知床は、世界の中でも流氷が接岸する海域としては最も低緯度(南)に位置しており、この点も学術的に貴重とされる。
- 知床半島は、ヒグマの生息密度が世界的に見ても非常に高い地域のひとつとされ、河口付近でサケを捕食するヒグマの姿がよく見られる。
- 知床の名は、アイヌ語の『シリエトク(地の果て)』に由来するとされる。
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